繰り返しのイメージ - (講義「サウンドデザイン」への提出レポート)

私が音楽を聴き始めて、おそらくまず最初に感じていたであろうと思われることのひとつに、音楽における繰り返しの重要性が挙げられる。例えば多くの歌謡は、1番・2番(・3番・・・)という旋律の大きな繰り返しの構造や歌詞の繰り返しを持っている。ポピュラー・ミュージックのいわゆる「ヴァース→コーラス→ヴァース」あるいは「Aメロ→Bメロ→サビ」などのありふれた構成の楽曲において感情を揺さぶるものがあるとしたらそれは、美しい旋律や良いと思われる歌詞の繰り返しの効果ではないだろうか。
音楽用語の「リフレイン」とは、楽曲や楽章の終わりや特定の形式にしたがった構造のなかに見られる反復部のことを指すもののようだ。一方、今日広く用いられている「リフ」という省略表現には、そういった音楽上の定式を離れた単なる繰り返しの意味しかないと思われる。私が問題にしたいのは、後者の側の、より広域な意味での「繰り返し」についてである。残念ながら私は音楽形式や記譜法、音楽理論にほとんど親しくないため、漠然とした言うなれば形而上的な、音楽における、音楽の繰り返しの効果について論じてみたいと思う。

モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel・1875-1937)の「水の戯れ」というピアノ曲は、私が最も愛する楽曲の一つである。
 音楽の素養にかける私のような人間でも、「水の戯れ」の尋常ならざる美しさには驚かされた。5年ほど前に始めてこの曲を聴いたときの私は標題音楽という言葉さえ知らなかったのだが、おそらくこの楽曲がピアノ以外の楽器で演奏されたら、もっと別のタイトルを必要とすることだろう。和音からこぼれ出してきたような単音のなだらかな連続は、転がり上がる/落ちる細かな水の玉を想起させ、聴く者はときに風でゆらめきたつ水面や、おだやかな河の流れへと断続的にイメージを変化させながら、とらえきれない流動的な楽音に身を任せてしまえる。
 このような印象主義的なイメージの移り変わりは、ピアノの旋律の繰り返しによるところが大きい。端的に記すと、冒頭の反復部に始まって、幾度となく現れるある旋律の反復から似た旋律の反復への移行が連想ゲーム的に行われ続けることで、まさに水のようにつかみどころのない、繊細なピアノの音色だけが耳に残るような全体が生じているのである。反復が全体に重層的な響きを与えているというよりむしろ旋律どうしの差異の総和が全体であると考えた方が正しそうだ。
 
 ところで、印象主義的音楽と標題音楽との間を結ぶには、イメージ(image[仏]=イマージュ=映像)が仲介役としてふさわしい。音楽における繰り返しという状態を可視的なイメージに置き換えるとするならば、それは円のイメージということになろう。スティーブ・ライヒ(Steve Reich・1936-)のピアノ曲「PIANO PHASE」やテープループによる「COME OUT」「IT'S GONNA RAIN」などのミニマル・ミュージックなどはまさにこの好例である。たとえば「PIANO PHASE」の2台のピアノは従来の記譜法では不可能だった位相のずれ(フェイズ・シフティング)に眼目がおかれているが、それぞれのピアノが演奏する同じ旋律が少しずつずれていくプロセスそのものが音楽であるという作曲家自身の考えに従うなら、反復される旋律の円環は二台のピアノの緩やかなずれを持ってはじめて音楽として構成されていることになる。フェイズ・シフティングという展開の方法が、反復の円環に対する補助線の役割を超えて、面あるいは立体を構成するまでの力となっているというわけだ。

 「水の戯れ」において考えると、複数の円環はいずれも異なるものであり、全体は線的なポリフォニーではなく立体的なイメージになっている。このような繰り返しのもつ効果の恩恵を受けて、私の知る限りのほとんどの音楽が出来ていると言ってもいいのではないだろうか。



参考資料
 「新音楽史」H.M.ミラー著 東海大学出版会 1977
 「緩やかに移り行くプロセスとしての音楽」スティーブ・ライヒ (正確な初出は未確認)

音源(所持するもの)
 CD「水の戯れ」演奏:モニク・アース
 CD「水の戯れ」演奏:サンソン・フランソワ


(2001年2月)

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