1.3.船と飛行機
1.メディアとしての乗り物
1.3.船と飛行機
ところで、このトライアングルの一端を示す農村は、定住生活の始まりの地である[注2]。人の技術が生み出した始めての乗り物である船は、農耕を始めるまでの狩猟採集生活を豊かにして、時を経て西欧社会が新大陸を発見するときにも用いられた。この広大な土地を有する新大陸においてモータリゼーションが爆発的に広がることになるのだが、モータリゼーションとそれに伴う郊外型文化の形成される過程についてはやはり後に詳しく触れることにして、ここではまず船という乗り物に着目することで、交通メディアと大地との関係について検証していくことにする。

客船「ソブリン・オブ・ザ・シーズ」
現在の船に任された役割は、大航海時代のような定住領域の拡大にあるのでも農村―都市―郊外を媒介することにあるのでもなくて、物資の運搬を除けばただ漁業の手段や、釣りや遊覧旅行などの趣味の用途に限られている。たしかに海の乗り物と言えば今でも船に類するもの以外考えられないのだけれども、いまや海を越える移動は、空を飛ぶ移動にとってかわられたといってもよかろう[注3]。石油や核燃料などを遠く離れた国家間で輸送する際には飛行機や自動車ではなくタンカーなどの運搬船が用いられるが、自動車はもちろん飛行機に比べても人・物を運ぶ役割はかなり限定された小さなものになってしまった。こういった事態の変化には、どうやら、船という乗り物による移動・運搬を保証するのが海という特殊なフィールドに限られているということが関係していると見て間違いなさそうである。
単純に、海という領域は陸や空とは根本的に違うものなのだと考えることもできる。これは動物の生態を考えれば当然のことで、空を飛んでいる鳥も住み処とするのは陸生生物と同じ陸(あるいは樹木)で、進化の歴史を辿ればどちらも同じほ乳類ということになる。イルカやクジラは別として、大地より上に住むほ乳類にとって海は基本的な生活圏に含まれない特殊な領域で、水の中に生きる魚などの生物にとって海以外の領域は特殊なのである。
ここで、我々にとって特殊な領域での定住生活の例として、たとえば東南アジア地域の河川で見られるような住居として機能する船の存在が挙げられるが、それはあくまでも海面を大地の延長にしてしまっているだけのことである。船が最も早い時期に生まれていた乗り物であるということは、ただ水に沈まずに浮かぶことのできる箱を作るだけの技術があれば、あとは帆によって生まれる風力や櫓による人力を使って動力にすればよかったからである。よって住居としての船とは、要は海を埋め立てて新たな大地を造成していることと何も変わらない。
実はこのことは船のような海(水)の乗り物全般に言えることで、魚のように<泳ぐ>ことのできる潜水艦といえども、その内部空間は大地を延伸するようにできた構造体なのである。潜水艦や豪華客船などは、移動手段としてのスピードよりもむしろ、住居としての設備の方をまず考えなければならない。遠洋で長く滞在する必要のある漁業船などの場合も居住性を一定の水準までクリアしている必要がある。例外的に軍事用途で開発された潜水艦や戦艦、それに警備艇などは、目的遂行のためにスピードを重視しているだろうが、それでもできるだけ大地の設備・建造物のような安全性を損なってはいけない。
このように考えると、飛行機という乗り物も、延伸された大地として空に浮かぶ構造体であると言えなくもない。陸(大地の抗力)や水面(浮力)といった支持体なしに移動するジェット機と潜水艦は、ボディの形態、尾翼の存在やスクリュー/プロペラという推進装置など基本的なところで非常に似通っている。我々人間にとっては空という領域もまた、海と同様に特殊な領域なのである。

海の移動の少なくともある部分が空の移動に取って代わられたことの主な原因には、飛行機が最も高速で移動できる乗り物であることが挙げられる。誕生して間もなくの頃の飛行機は、もちろん今のように高速でも安全でもなかった。飛行機の原点は、揚力を利用して作られたリリエンタールのグライダーに求めることが出来るだろう。自動車の場合と同様に、電気の力が現在の飛行機の高速移動、大量輸送、安全性といった均質的な水準を維持・実現している。機械技術に加えて電気の技術を獲得し、電気メディアの時代を迎えたことで外爆発が終息し内爆発へ向かうというマクルーハンの言説に則して言えば、画一的な安全性が人々の間によく知られ、規格化された移動サービスとして普及した飛行機という乗り物メディアは、内爆発を促進する電気メディアの前提として機能しているということだ。ここで言う電気メディアによる内爆発が、高速の移動による時空間の圧縮を指し示すものであることは言うまでもない。その意味では、内爆発の時代、すなわちメディアの時代における主要な乗り物とは、基本的技術において電気エネルギーの貢献が大きい自動車や飛行機といった乗り物ということになり、逆に船や自転車などはそれほどの役割を担わされていないといったことが言えるだろうか。
1.3.船と飛行機
ところで、このトライアングルの一端を示す農村は、定住生活の始まりの地である[注2]。人の技術が生み出した始めての乗り物である船は、農耕を始めるまでの狩猟採集生活を豊かにして、時を経て西欧社会が新大陸を発見するときにも用いられた。この広大な土地を有する新大陸においてモータリゼーションが爆発的に広がることになるのだが、モータリゼーションとそれに伴う郊外型文化の形成される過程についてはやはり後に詳しく触れることにして、ここではまず船という乗り物に着目することで、交通メディアと大地との関係について検証していくことにする。

客船「ソブリン・オブ・ザ・シーズ」
現在の船に任された役割は、大航海時代のような定住領域の拡大にあるのでも農村―都市―郊外を媒介することにあるのでもなくて、物資の運搬を除けばただ漁業の手段や、釣りや遊覧旅行などの趣味の用途に限られている。たしかに海の乗り物と言えば今でも船に類するもの以外考えられないのだけれども、いまや海を越える移動は、空を飛ぶ移動にとってかわられたといってもよかろう[注3]。石油や核燃料などを遠く離れた国家間で輸送する際には飛行機や自動車ではなくタンカーなどの運搬船が用いられるが、自動車はもちろん飛行機に比べても人・物を運ぶ役割はかなり限定された小さなものになってしまった。こういった事態の変化には、どうやら、船という乗り物による移動・運搬を保証するのが海という特殊なフィールドに限られているということが関係していると見て間違いなさそうである。
単純に、海という領域は陸や空とは根本的に違うものなのだと考えることもできる。これは動物の生態を考えれば当然のことで、空を飛んでいる鳥も住み処とするのは陸生生物と同じ陸(あるいは樹木)で、進化の歴史を辿ればどちらも同じほ乳類ということになる。イルカやクジラは別として、大地より上に住むほ乳類にとって海は基本的な生活圏に含まれない特殊な領域で、水の中に生きる魚などの生物にとって海以外の領域は特殊なのである。
ここで、我々にとって特殊な領域での定住生活の例として、たとえば東南アジア地域の河川で見られるような住居として機能する船の存在が挙げられるが、それはあくまでも海面を大地の延長にしてしまっているだけのことである。船が最も早い時期に生まれていた乗り物であるということは、ただ水に沈まずに浮かぶことのできる箱を作るだけの技術があれば、あとは帆によって生まれる風力や櫓による人力を使って動力にすればよかったからである。よって住居としての船とは、要は海を埋め立てて新たな大地を造成していることと何も変わらない。
実はこのことは船のような海(水)の乗り物全般に言えることで、魚のように<泳ぐ>ことのできる潜水艦といえども、その内部空間は大地を延伸するようにできた構造体なのである。潜水艦や豪華客船などは、移動手段としてのスピードよりもむしろ、住居としての設備の方をまず考えなければならない。遠洋で長く滞在する必要のある漁業船などの場合も居住性を一定の水準までクリアしている必要がある。例外的に軍事用途で開発された潜水艦や戦艦、それに警備艇などは、目的遂行のためにスピードを重視しているだろうが、それでもできるだけ大地の設備・建造物のような安全性を損なってはいけない。
このように考えると、飛行機という乗り物も、延伸された大地として空に浮かぶ構造体であると言えなくもない。陸(大地の抗力)や水面(浮力)といった支持体なしに移動するジェット機と潜水艦は、ボディの形態、尾翼の存在やスクリュー/プロペラという推進装置など基本的なところで非常に似通っている。我々人間にとっては空という領域もまた、海と同様に特殊な領域なのである。
海の移動の少なくともある部分が空の移動に取って代わられたことの主な原因には、飛行機が最も高速で移動できる乗り物であることが挙げられる。誕生して間もなくの頃の飛行機は、もちろん今のように高速でも安全でもなかった。飛行機の原点は、揚力を利用して作られたリリエンタールのグライダーに求めることが出来るだろう。自動車の場合と同様に、電気の力が現在の飛行機の高速移動、大量輸送、安全性といった均質的な水準を維持・実現している。機械技術に加えて電気の技術を獲得し、電気メディアの時代を迎えたことで外爆発が終息し内爆発へ向かうというマクルーハンの言説に則して言えば、画一的な安全性が人々の間によく知られ、規格化された移動サービスとして普及した飛行機という乗り物メディアは、内爆発を促進する電気メディアの前提として機能しているということだ。ここで言う電気メディアによる内爆発が、高速の移動による時空間の圧縮を指し示すものであることは言うまでもない。その意味では、内爆発の時代、すなわちメディアの時代における主要な乗り物とは、基本的技術において電気エネルギーの貢献が大きい自動車や飛行機といった乗り物ということになり、逆に船や自転車などはそれほどの役割を担わされていないといったことが言えるだろうか。
Comments
Add Comment
コメント投稿時のNGワードについてAbout
「移動と定住」 は、taichistereo(入江太一) によって 2001年に執筆された 卒業論文です(学科賞 受賞)。
大学卒業後は ハードディスクの片隅にひっそりと眠っているだけでしたが、2007年に Nucleus CMS を用いて 改めてコンテンツとして蘇生させることにしました。
■ 当時の学籍 ■
東京工芸大学 芸術学部 映像学科
メディア計画研究室
Navigation
- [ 前へ ]
- [ 次へ ]
- [ 目次 ]
- 要旨
- 0.前書き
- 1.メディアとしての乗り物
- 1.1.乗り物というメディア
- 1.2.定住領域の拡大とメディアの外爆発
- 1.3.船と飛行機
- 1.4.メディア時代の速度
- 1.5.管理制御技術
- 2.失われつつある生活
- 2.1.アメリカ
- 2.2.郊外の住環境
- 2.3.郊外の乗り物
- 2.4.自動車と定住様式
- 3.テクノロジー
- 3.1.あそび
- 3.2.速度の遊戯
- 3.3.視聴覚メディアとしての乗り物
- 3.4.企てと逸脱
- 4.移動すること
- 4.1.時間と空間の圧縮
- 4.2.非-場所
- 4.3.家
- 4.4.サイバネーション
- 注解
- 参考文献
- Twitterと政治(α) / ぽりったー(politter)
- 日本の政治家のTwitter投稿をまとめて一覧表示
- 社長ったー
- 日本の経営者のTwitterタイムラインを一覧表示
- [らじったー] ソーシャルラジオストリーム
- radiko(ラジコ)を聴きながらTwitterタイムラインを一覧表示
- [目安箱] あなたのツイートが政治を変える!
- Twitterで私たちの意見をまとめて政治家に伝える、ソーシャル目安箱
- FXスタジアム
- FX(外国為替)で取引しながら、Twitterでリアルタイムに意見共有
- 更新Ping送信先一覧 まとめwiki
- 更新Ping通知先の最新一覧まとめサイト
- SNSストックフォト
- SNSプロフ画像をまとめた 画像共有サイト
- mixiサーフ
- mixiなど 国内海外120以上のSNSを自動巡回して遊べるサイト
- ニコニコちゃんねる(ZZ)
- 「2ちゃんねる」の全スレッドを「ニコニコ動画」の字幕スタイルに変換
- キャストライフ
- ストリーミング・ポッドキャストに対応したソーシャルブックマーク
- ZOND 5
- 横スクロール型・ショッピングモール
- まとめよみ.com
- 人気ブログがぜーんぶまとめて読めちゃうサイト
- 共有メールアドレス
- 受信専用のメールアドレスを共有してみるプロジェクト
- ひつまぶしセンター
- ミニゲームサイト(ひまなひと向け)
- Videoサーフ
- 動画共有サイトの全コンテンツをランダムに巡回表示
- コエカタマリン MX 2007
- [ブログ] Web開発・デザイン・ディレクションにおけるTIPSなど
- テックマーク
- [ブログ] TECHnology + bookMARK
- NucleusCMSのホームページ制作
- オープンソースCMS導入と運用
- コエカタマリン
- 制作ユニット公式サイト
Index (Archive)
Links